「ばあちゃん、火遠理命どうなったん?」
「うん、火遠理命(山幸彦)は、三年間も豊玉毘売(とよたまびめ)と一緒に過ごしてたけど、急にため息をつきだしたんや。豊玉毘売がそれを見て、おとうさんの綿津見に相談したんや。」
「それで、綿津見はどうしたん?」
「綿津見は、火遠理命に『どうしたんや?』って訊いたんや。すると、火遠理命は兄に釣針を返せと言われたことを話して、どうしても返せないんやって言ったんや。」
「それで綿津見はなんかしてくれたんかな?」
「綿津見わたつみは、魚たちを呼び集めて、『この釣針を取った魚はいないか』と訊いたんや。すると、赤い鯛が釣針を喉に刺さってて困ってたんや。」
「赤鯛が釣針を取ってたんやなぁ。」
「そうやねん。綿津見わたつみは釣針を取り出して、火遠理命に渡したんや。その時、釣針を返す時の言葉やどうやって兄に報復するかも教えてくれたんや。」
「それで、どんなこと教えてくれたん?」
「この釣針を海幸彦に返すときに、この釣針は、おぼ針、すす針、貧針、うる針になる針、と心の中で唱えながら後ろ向きになって渡しなさい。
そして、お兄さんが高いところに田を作ったら君は低いところに田を作り、お兄さんが低いところに田を作ったら君は高いところに田を作りなさいって綿津見が教えてくれたんや」
「なに、その呪文みたいな言葉…?」
「そやな、呪文かもしれんな。憂鬱になる針、心が落ち着かなくなる針、貧しくなる針、愚かになる針ていう意味なんや。」
「なんか恐ろしい言葉やな」
「でな、火遠理命は、言われた通りに釣針を兄に渡したんやけど、その後、火照命(ほでりのみこと)はどんどん貧しくなって、心も荒れてきたんや。攻めてきた時には、潮満珠(しおみつたま)を出して溺れさせ、助けを乞うた時には潮干珠(しおふるたま)で救ったんや。」
「怖っ、それで火照命はどうなったん?」
「火照命は、火遠理命に服従して、自分の守護者として仕えることを約束したんや。それからは、火照命の子孫が海水に溺れたときのしぐさを宮廷で演じて、仕え続けているんや。」
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