「ばあちゃん、伊波礼毘古(いわれびこ)が忍坂(おさか)の大室(おおむろ)に着いたときの話をもっと教えてぇな!」
「おおっ、忍坂に着いた時、そこで待ってたのは尾の生えた土雲(つちぐも)やったんや。強い者たちが岩屋(いわや)で唸って待ち構えてたんやで。」
「その土雲をどうやって倒したん?」
「天つ神(あまつかみ)の御子(みこ)の命令で、御馳走を大勢の強者たちに振る舞ったんや。その料理人たちには、歌を聞いたら一斉に斬りつけるように指示したんや。」
「どんな歌やったん?」
「それがな、歌の内容はこうやったんや。」
「『忍坂の大きな土室(つちむろ)に、人が数多く集まって入っている。どんなに多くの人が入っていても、勢い盛んな久米部(くめべ)の兵士が、頭椎(くぶつつ)の太刀や石椎(いしつつ)の太刀でもって、撃ってしまうぞ。』って歌って、その後一斉に太刀を抜いて打ち殺したんや。」
「すごい迫力やな。他にどんな歌があったん?」
「その後もいろんな歌が詠まれたんやで。例えばこんな歌もあったんや。」
「『久米部(くめべ)の者たちが垣のほとりに植えた山椒(さんしょう)の実は辛くて、口がひりひりする。我々は、敵から受けた痛手を忘れまい。敵を撃ち取ってしまうぞ。』とか、『伊勢の海の生い立つ石に這いまつわっている細螺(しただみ)のように、敵のまわりを這い回って撃ち滅ぼしてしまうぞ。』ってな。」
「いろんな歌があったんやなぁ。他に何かあったん?」
「兄師木(えしき)や弟師木(おとしき)を討った時に詠んだ歌があったんやで。」
「その歌は?」
「『伊那佐(いなざ)の山の木の間を通って行きながら、敵の様子を見守って戦ったので、我々は腹がへった。鵜養部(うかいべ)の者どもよ、今すぐに助けに来てくれ。』ってな。」
「それで、伊波礼毘古はどうなったん?」
「邇芸速日(にぎはやひ)命(みこと)が天つ神の御子に参上して、宝物を奉ってお仕えしたんや。邇芸速日は登美毘古(とみびこ)の妹、登美夜毘売(とみやびめ)と結婚して、宇麻志麻遅(うましまじ)を生んだんや。」
「それからどうなったん?」
「こうして伊波礼毘古はいろんな荒ぶる神たちを平定して、服従しない人たちを撃退して、畝火(うねび)の白檮原宮(かしはらのみや)で天下を治めるようになったんやで。」
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