「ばあちゃん、宇陀にいた兄宇迦斯(えうかし)と弟宇迦斯(おとうかし)って、どんな人たちやったん?」
「兄宇迦斯と弟宇迦斯、二人とも宇陀におったんやけど、どうやら兄の方はあんまりええ人ちゃうかったみたいやで。」
「どんなことがあったん?」
「まず、八咫烏(やたがらす)が二人に尋ねに行ったんや。天つ神(あまつかみ)の御子(みこ)が来たんで、仕えますかって聞いたんやけど、兄宇迦斯はそれを待ち受けて、矢で射返して追い返してしもたんや。」
「それでどうなったん?」
「兄宇迦斯は軍勢を集めようとしたけど、集められんかったから、仕えるふりして偽って御殿を作り、その中に押罠(おしわな)を仕掛けて待ち受けたんや。」
「じゃぁ、弟宇迦斯はどうしたん?」
「弟宇迦斯は、兄の計画を知って、伊波礼毘古(いわれびこ)をお迎えに行ったんや。拝礼して、兄が仕えるふりして殺そうとしてることを全部話したんや。」
「それで、どうなったん?」
「それで、大伴連(おおともうらじ)の道臣(みちのおみ)と久米直(くめのあたい)の大久米(おおくめ)が、兄宇迦斯を呼び出して、まずは自分が入って仕えるふりをして見せろって言ったんや。そして、太刀を持って矛をしごき、矢をつがえて追い込んだんやけど、兄宇迦斯は自分の仕掛けた押罠に打たれて死んでしまったんや。」
「それで、その土地はどうなったん?」
「その後、兄宇迦斯の死体を引き出して斬り散らしたんや。それでその地を『宇陀の血原(うだのちはら)』って呼ぶようになったんや。」
「弟宇迦斯はどうしたん?」
「弟宇迦斯は、伊波礼毘古に献上した御馳走をその軍勢に与えたんやで。それから詠んだ歌があるんや。」
「それってどんな歌なん?」
「歌の内容はこんな感じやったんや。『宇陀の高地の狩り場に、鴫罠(しぎわな)を張る。私が待っている鴫はかからず、思いもよらない鯨(くじら)がかかった。古妻がお菜を欲しがったら、肉の少ないところをへぎ取ってやるがよい。後で娶った妻がお菜を欲しがったら、肉の多いところをたくさんへぎ取ってやるがよい。エー、シヤコシヤ。アー、シヤコシヤ。』」
「弟宇迦斯は宇陀水取(うだのもいとり)の祖先なんやで。」
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