「ほんでな、イザナギさんはどないしても亡くなったイザナミさんに
会いたくて、黄泉の国に追いかけて行ったんや。」
「黄泉の国って、死んだ人が行くとこやんな?」
「そやそや。ほんでイザナミさんが出てきてな、『私とあなたが
一緒に作った国はまだ完成してへん。せやから戻ってきてくれへんか』って頼んだんや。」
「イザナギさん、ほんまに未練タラタラやなぁ。でも、イザナミさんはどう言うたん?」
「イザナミさんは、『ほんまに残念やなぁ。もっと早う来てくれてたら良かったんやけど、もう黄泉の国の食べ物食べてしもたから戻られへん』って言うてん。それでもイザナギさんが来てくれたことに感謝して、黄泉の国の神さんと相談してみるって言うたんやけど、その間 『絶対に私の姿を見たらあかんで!』って釘さしてん。」
「おぉ、なんか怪しい感じするなぁ…。」
「ところがな、イザナギさんは待ちきれへんようになって、髪に挿しとった神聖な櫛を折って火を灯して、こっそりイザナミさんの姿を見てしもたんや。」
「えぇっ!?それでどうなったん?」
「イザナミさんはな、もうすっかり変わり果てた姿やったんや。 体には蛆がたかって、頭には雷、胸や腹にも雷がおって、全身に八種類もの雷神がまとわりついとったんやで。」
「ひぇぇ、めっちゃ怖いやん!」
「そやからイザナギさん、びっくりして逃げ出したんやけど、イザナミさんは怒ってな、『よくも私に恥かかせてくれたな』言うて、黄泉の国の醜女(しこめ)たちを差し向けたんや。」
「追いかけられるんか!?」
「そやそや。ほんでイザナギさんは、髪につけてた黒いかずらを投げ捨てたら、山ぶどうが生えてきてな。それを醜女たちが食べてる間に逃げ延びたんやけど、まだ追いかけてくるから、次は櫛を投げて、筍が生えたんや。それも食べさせてる間にまた逃げたんやで。」
「なんや、結構賢いな!」
「そやけど、まだ追ってくるから、今度は剣を抜いて、黄泉比良坂 (よもつひらさか)いう現世と黄泉の国の境まで逃げてきたんや。」
「それで、どうなったん?」
「そこでな、桃の実を3つ取って、黄泉の軍勢に投げつけたんや。
ほんだら、黄泉の軍勢は一斉に逃げていってしもたんや。」
「桃って、そんな力あるんや!?」
「そやで!桃には魔除けの力があるんや。ほんで、イザナギさんはその桃に神の名を与えて、『現世の人々が困った時に助けてくれ』って頼んだんや。」
「ほぉ、桃がヒーローみたいなもんやな。」
「でも最後にはな、イザナミさん自身が追いかけてきてん。それで
イザナギさんは、巨大な岩を引き据えて、黄泉の坂を塞いでしもたんや。」
「それでイザナミさんはどうしたん?」
「イザナミさんは怒ってな、『この恨み晴らしたる! あんたの国の人々を一日に千人も締め殺したる』って言うたんや。ほんでイザナギさんは、『ほんなら、私は一日に千五百人の赤ちゃんを産ませる』って返したんや。」
「うわぁ、夫婦喧嘩がすごいスケールやなぁ…。」
「そやから、毎日人が亡くなる一方で、毎日新しい命が生まれるんや。それがこの世の仕組みなんやで。」
「そっかぁ…。神話って、命の循環とか、大事なことを教えてくれるんやな。」
「ほんまやなぁ。これで黄泉の国の話は終わりやけど、次もまたおもろい神話があるで!」
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