「おばあちゃん、次は大穴牟遅(おおなむじ)さんが須佐之男命(すさのおのみこと)のとこに行く話やったよな?」
「そうやったなぁ。大穴牟遅は、紀伊国(きいのくに)の大屋毘古神(おおやびこがみ)に助けられてついに須佐之男の根の国(ねのくに)にたどり着くんや。そこで須佐之男の娘、須勢理毘売(すせりひめ)に出会うんやけど、二人は一目で恋に落ちてしもたんや。」
「うわぁ、なんかロマンチックやなぁ。」
「ほんまやで。須勢理毘売は、お父さんに『立派な神が来はった』って言うて、大穴牟遅を家に招き入れたんや。そしたら須佐之男はな、『ほな蛇のいる部屋に泊まらせたろ』って言うて、大穴牟遅を危険な部屋に入れてしもたんや。」
「えっ!いきなりそんな危険なとこに?」
「そやねん。でも須勢理毘売が優しくてな、蛇を退けるための領巾(ひれ)を渡して『これを三回振りなさい』って教えてくれたんや。大穴牟遅はその通りにして無事に蛇を追い払ってなんとか一晩を乗り越えたんやで。」
「さすがやなぁ。でもまた次も危険なんやろ?」
「その通りや。次の晩は、蜈蚣(むかで)と蜂(はち)のいる部屋に入れられてな。須勢理毘売がまた領巾を渡して助けてくれたから無事にそこも乗り越えたんや。」
「毎晩危険やん!それで須佐之男は何を考えとったん?」
「須佐之男は、大穴牟遅を試してたんや。次の日には、広い野原に鐘矢(かぶらや)を射込んで、それを拾ってこいって命令したんや。でもその野原に入った途端に火を放たれてな…野が燃え盛る中で大穴牟遅はどうしようもなく困っとったんや。」
「うわぁ、もう最悪やん!それでどうしたん?」
「そこに助けに来たんが、なんと鼠(ねずみ)やったんや。その鼠が『中は広い、外は狭い』って教えてくれてな、大穴牟遅はその言葉を信じて地面に潜り込んで火を避けることができたんや。」
「鼠が助けるんや!それで鐘矢はどうなったん?」
「その鼠がな、鐘矢を口にくわえて戻ってきて、大穴牟遅に渡したんや。だから大穴牟遅は無事にその鐘矢を持って須佐之男に届けたんやで。」
「鼠すごっ、めっちゃええ奴やん!」
「そうやな。でも、まだ試練は続くんや。今度は、須佐之男が大穴牟遅に自分の虱(しらみ)を取るように命じたんやけどその頭にはいっぱい蜈蚣(ムカデ)がついてたんや。」
「また?今度は蜈蚣!?」
「そやねん。でも須勢理毘売が、椋の実と赤土を持ってきてな、それを嚙んで吐き出したらまるで蜈蚣を嚙み砕いてるように見せかけて
須佐之男をだましたんや。それで須佐之男は『こいつは可愛い奴や』と思って、安心して寝てしもたんや。」
「賢いなぁ。それでどうなったん?」
「その隙に、大穴牟遅は須佐之男の髪を垂木(たるき)に結びつけて、岩で戸口を塞いで宝物を持って須勢理毘売を背負って逃げ出したんや。」
「おお!やっと逃げれたんやな!」
「そやけど、途中で天詔琴(あまののりごと)が木に触れて、大きな音が鳴ってもうてな。それで須佐之男が目を覚ましてしまったんや。」
「バレたんか!?」
「せやけど、大穴牟遅はもうだいぶ遠くまで逃げてたから、須佐之男も追いつけへんかったんや。それで須佐之男は、黄泉比良坂(よもつひらさか)まで追いかけてきて大穴牟遅に言うたんや。『その生大刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)で兄弟の八十神(やそがみ)を退け、大国主神(おおくにぬしのかみ)として国を治めろ。そして、娘の須勢理毘売を妻として立派な宮殿を建てて暮らせ』ってな」。
「ほんなら、やっと認めてもらって幸せになれたんやな!」
「そうや。大穴牟遅は須佐之男の命令通りに八十神を倒して国作りを始めたんや。そして八上比売(やがみひめ)とも結婚して出雲に連れて帰ったんやけど…。」
「やけど…?」
「須勢理毘売を恐れてやな八上比売が産んだ子供を木の股に挟んで因幡に帰ってしまったんや。それでその子を『木俣神(きまたのかみ)』って名付けたんやで。」
この話は、試練と困難を乗り越え、知恵と助けを借りて成功を収める大穴牟遅の物語です。須佐之男命との試練や、鼠の助け、そして須勢理毘売との愛の力が彼を強くし国を治める大国主神へと導きました。
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