
「ばあちゃん、天若日子が死んだあと下照比売が泣いてたんやな。」



「そやで。下照比売の泣く声が風に乗って天まで届いたんや。それを聞いた天若日子の父親、天津国玉(あまつくにたま)や家族も悲しみでいっぱいになって下界に降りてきたんやで。」



「そっか…葬儀のときみんなが歌舞したんやろ?」



「そや。川雁(かわかり)を食物運ぶ係にして、鷺は掃除係、翡翠(かわせみ)は御饌(みけ)の係、雀は米つき女、雉を泣き女にして盛大な葬儀が行われたんや。八日八夜も続いたんやで。」



「なんや不思議な話やな。でも、そのとき阿遅志貴高日子根(あぢしきたかひこね)って神様も来たんやろ?」



「そうやねん。阿遅志貴高日子根神が弔問に来たとき、天若日子の家族はな、この神様の顔が天若日子にそっくりやったから間違えて『生き返った!』って大泣きしてしまったんや。」



「ほんまにそっくりやったんやな。でも、それでどうなったん?」



「阿遅志貴高日子根は怒ってもうたんや。『なんでわしを穢れた死人と間違えんねん』って言うて持ってた剣を抜いて喪屋を切り倒してしもうたんや。」



「そ、そんな怒るほどそっくりやったんか…。それでどうなったん?」



「怒った阿遅志貴高日子根は、そのまま飛び去ってもうたんや。でも、そのあと妹の高比売(たかひめ)が、兄の名前を明かすために歌を詠んだんや。」



「高比売が歌ったんか。どんな歌やったん?」



「それがな、こういう歌やったんや。『天上にいる若い機織女が、首にかけてる玉の緒、その玉が光り輝いてるように谷を越えて輝く神は阿遅志貴高日子根である』ってな。」



「すごい綺麗な歌やな…。その神様、ほんまに力強くて輝いてるんやろうな。」



「そやで。この歌はな、『夷振ひなぶり』の歌とも言われて昔から伝わる特別な歌やねん。」



「ふーん、神話の話ってほんまに奥深いなあ…。こんなふうに神様同士でもいろんな出来事があったんやな。」



「せやろ?神話には、人間と同じように神様たちも感情があって、いろんなことがあったんや。だからこそ、昔の人々はこういう神話から学んで日々の生活に活かしてきたんやで。」



「うん、ばあちゃんの話聞くと、もっといろんな神話知りたくなってくるわ。次はどんな神様の話してくれるん?」



「ふふ、次はまた面白い神様の話が待ってるで。楽しみにしときや。」
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